事務局だより(2015年1月26日)

1月の講演会では、近世初期にアドリア海で活躍し、後のロマン主義時代にクロアティアの英雄として描かれるようになった海賊ウスコクについてお話しいただきました。ダルマティア辺境の貧しい遊牧民を出自とする彼らが、国や宗教の力のなかで揺れつつ経済生活を営んでいた様子が彷彿とする講演でした。講演者がプロデューサーを務めたウスコクのアニメ映画も圧巻でした。
次回は、ポリネシアの北端に位置する、アメリカ合衆国最後の加盟州であるハワイについて、その歴史と社会の変遷を辿っていただきます。
どうぞ奮ってご参加ください。

3月の講演会は事務局の海外出張等によりお休みをいただきます。4月の講演会については追ってお知らせを差し上げます。


いまだ寒さの底にありますが、徐々に春を運んでくる日の光や風の匂いに励まされます。先へと続いていく生活の予感が心を暖めてくれる時期です。野に街に、健やかな時をお過ごしください。

―麦踏や寒さに堪へて小刻みに(西山泊雲)

第116回講演会のお知らせ

「王国の栄光と簒奪―19世紀ハワイ史」
山本 真鳥 氏(法政大学教授)

日付: 2015年02月07日(土)
時間: 16:00 – 18:00
場所: 渋谷アイビスビル10階 (エレベータで9階へ上がり階段でお越しください)

講師プロフィール:
山本 真鳥(やまもと まとり)
法政大学教授。研究テーマ:文化人類学、オセアニア史。
著書・訳書:M・ミード『サモアの思春期』(蒼樹書房76年)、M・サーリンズ『歴史の島々』(法政大学出版局、1993年)『儀礼としての経済 : サモア社会の贈与・権力・セクシュアリティ』(山本泰と共著、弘文堂、96年)、『植民地主義と文化:人類学のパースペクティヴ』(山下晋司と共編著、新曜社、97年)『オセアニア史』(編著、山川出版社、2000年)、『性と文化』(法政大学出版局、04年)、『土地と人間』(小谷旺之・藤田進と共著、有志舎、12年)、『ハワイを知るための60章』(山田亨と共編著、明石書店、13年)など。

講演要旨:
誰でも知っているようで知らないハワイ。日系人が多いらしいけどどうして?ハワイって楽園なの? フラダンスとか、ハワイアン音楽とか、あるけど、ハワイ人ってどんな人たち? ハワイにはいろいろな民族や人種が住んでいるらしいけど、どうしてそうなったの? ハワイってアメリカなの?
アメリカ合衆国議会には、会期を外すと中を見学させてくれるツアーがある。展示ギャラリーは、アメリカ政治のさまざまなお宝で満ちており、民主主義や、自由の精神の象徴となる文書や絵画をはじめとするアート作品などが展示されている。その中で異彩を放っているのは、ハワイ州から寄贈されたカメハメハの銅像であるが、これがなんだか、民主主義を標榜する国の展示の中で、場違い感が強いのである。王国から合衆国に併合されたのは、ハワイ州だけであろう。
18世紀終わり頃にクック船長が西洋人として初めてハワイ諸島(クックはサンドウィッチ諸島と名付けた)を訪れたとき、そこには既に高度に発達した王国群が存在していた。19世紀に入るとカメハメハが西洋人たちの力を借りて、諸島の統一を成し遂げ、王朝を確立し近代化を図るがその道は険しかった。自給自足経済から市場経済へ、伝統的宗教からキリスト教へ、共同体的土地所有から個人所有へ。近代世界システムへと経済的に開かれていく中で、外国人にサトウキビ・プランテーションの経営を任せ、労働者は海外から調達するようになる。外界との接触によりさまざまな病気が蔓延し、アルコール中毒なども合わせハワイ人の人口減少は著しいものがあったため、労働力を海外に頼るのはいたしかたなかった。そうしているうち、次第にアメリカ出身の植民者たちに実権を握られ、しまいに1898年にアメリカ合衆国に併合されたのである。

[典拠:山本真鳥編著『オセアニア史』(山川出版社00年)、Ralph Kuykendall, The Hawaiian Kingdom, 3vols. University of Hawaii Press, 1938, 1956, 1973. S.M. Kamakau, Ruling Chiefs of Hawaii, Kamehameha School Press, 1961. など。]

世界史研究所アフリカ奨学基金第三期ご寄付のお願い

世界史研究所では皆さまの篤志に支えられて、2011年度から「世界史研究所アフリカ奨学金」の制度を運営してまいりました。おかげさまで、2015年の1月からは第三期奨学金給付が始まります。過去2回と同様、ナイジェリアのイロリン大学人文学部歴史学科および国際研究学科の学生の方が対象です。
つきましては、経済的困窮のなかで向学心に燃えるアフリカの学生を支える一助を皆さまにお願いしたく存じます。日本のコーヒー数杯分程度のご援助でかまいませんので、皆さまのお志をいただければたいへんにうれしく思います。
募金の送り先は以下のとおりです。期日は3月末までとなっております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 三菱東京UFJ銀行 渋谷支店
口座 普通預金
口座番号 0683412
口座名義 (特)歴史文化交流フォーラム 理事 南塚信吾 

事務局だより(2015年1月5日)

あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申しげます。

12月の講演会では、近世期京都のひとつの町(ちょう)であった御倉町の様子を、貴重な一次資料に基づいて活写していただきました。町の自治制度、住民の職や住など、資料を通して浮かび上がる生活の細部には知的興奮を喚起されました。
年明け初回の講演会は、「ウスコク」と呼ばれる近世初期のアドリア海で活躍した海賊についてのお話を伺います。
どうぞ奮ってご参加ください。

次々回は2月7日(土)の開催となります。ポリネシアのお話しを予定しています。詳細は追ってお知らせいたします。


様々なことがあって長かった、あるいは短かった1年。とり立ててこともなくゆったりとした、あるいはあっという間だった1年。人により心理的時間の速度は異なりましょうが、それぞれの1年を経て、誰もがまた違う場所に立っているのだろうと思います。皆さまがそれぞれに、こころ穏やかな場所から新しい年に踏み出されますように、お祈り申し上げます。

第115回講演会のお知らせ

「地中海の海賊――知られざる英雄ウスコク」
越村 勲 氏(東京造形大学教授)

日付: 2015年01月10日(土)
時間: 16:00 – 18:00
場所: 渋谷アイビスビル10階 (エレベータで9階へ上がり階段でお越しください)

講師プロフィール:
越村 勲(こしむら いさお)氏
東京造形大学教授。研究テーマは、クロアティアなど東欧の社会・文化史。
著書・訳書:R・オーキー『東欧近代史』(勁草書房、1987年)、『東南欧農民運動史の研究』(多賀出版、90年)、Ph・E・モズリー『バルカンの大家族ザドルガ』(彩流社、94年)、D・ロクサンディチ『クロアティア=セルビア社会史断章』(彩流社、99年)、S・ノヴァコヴィチ『セロ――中世セルビアの村と家』(刀水書房、2003年)、『映画「アンダーグラウンド」を観ましたか』(彩流社2004年)、新世界地理第10巻『ヨーロッパⅣ――東ヨーロッパ・ロシア』(朝倉書店06年)、『クロアティアのアニメーション』(彩流社、10年)、K・カーザー『ハプスブルク軍政国境の社会史』(学術出版会、13年)。

講演要旨:
舞台は地中海の東北部、いわゆるアドリア海。時代は日本の戦国時代から江戸初期にかけて、クロアティアの場合半ばオスマン帝国に支配され、オーストリアやヴェネツィアに助けを求めたり、逆に利用されたりした時代(この時代の緊張感や暴力については、例えば黒澤映画「七人の侍」を参考にして下さい)。uskok
クロアティアではハンガリーの南からアドリア海にかけて軍政国境という、万里の長城のような国境地帯が作られます。そしてオスマンの支配から逃れた難民とヴェネツィアからきた流民とが、軍政国境の港町セーニに集まって海賊団を作ります。それがウスコク(日本語で多少無理に訳すと「飛入り衆」)です。
今回はウスコクが①海賊といってもどういう海賊だったか、②どうして海賊になったか、③どういう活動をしていたか、そして④どうしてウスコクは永らくクロアティアの英雄でいられたのか、についてお話しします。
先ほど日本の戦国時代と比較しましたが、大航海時代の早い時期に、東地中海と東シナ海の沿岸の人々や境界社会が世界の動きにどう反応したかを比較検討するプロジェクト”Uskok and Wako〜Piracy, Border Society and the Making of Modern World‐Economy” を現在進めており、今回はその一環として、またウスコクについて本邦で始めて詳しくお話しすることになります。
なお、当日の最後に、私が東京造形大学の卒業生とともに作った、6分ほどのアニメーション「ウスコク/キリスト教世界の英雄」を上映します。

[典拠:Catherine Wendy Bracewell, The Uskoks of Senj~ Piracy, Banditry, and Holy War in the Sixteenth-Century Adriatic, Cornell University Press,1992.ほか近年のクロアティアのウスコクに関する研究論文や学会報告など。]