第112回講演会のお知らせ

「17世紀の都市で、食べる物と着る物を買う――モノを売る人と場の東西比較」
杉浦 未樹 氏 (法政大学教授)

日付: 2014年10月04日(土)
時間: 16:00 – 18:00
場所: 渋谷アイビスビル10階 (エレベータで9階へ上がり階段でお越しください)

講師プロフィール:
2004年東京大学大学院経済学研究科にて博士号(PhD)取得後、アムステルダム大学客員研究員、東京国際大学准教授を経て、法政大学経済学部教授。専門は、オランダを中心とする近世都市の流通・消費史。最近の関心は、18-20世紀の古着流通を手掛かりに、布・衣の世界的な循環を叙述することにある。東京大学東洋文化研究所の羽田正教授による拠点形成プロジェクトGlobal History Collaborativeのメンバー。2014年より経済史・服飾史家数名とともに糸・布・衣の循環史研究会を主宰。

講演要旨:
17世紀初めに、ともに人口が急成長した都市、江戸とアムステルダム。どちらでも、市内を縦横に運河が張り巡らされ、街路や橋のたもとに市場が広がり、売り歩きの活気のよい声が路上に響いていました。しかし、ところ変わればモノの売り方も売る人も異なるもの。たとえば、アムステルダムでは女性の売り歩きが多いのに対し、江戸ではほぼ男性。江戸の市場の多くは店舗の軒先を借りて路上で毎日開くものでしたが、アムステルダムの市場は、公共の広場を使い、時間を決めて日替わりで開かれる週市が基本でした。この点は両都市の広場の配置や景観にも影響を与えました。
また、もっとも対照的であったのが古着の売買といえるでしょう。当時、両都市とも、ほとんどの都市民の生活着は古着でした。江戸には、世界でも際立って組織的な古着市場が成立しました。一方、アムステルダムには大規模な古着市場が成立しません。この背景には、均分相続制度が徹底して実行されたため、個人の家財・生活用品の一切合切を査定し財産目録をつくり、オークションにて大半を売り払うことがさかんだったことがあります。そこから衣服専門の査定人が成長し古着売りとなるという、日本人の視点からするとユニークな物売りが活躍しました。
日本とオランダという離れた場所ですから、制度や社会が異なるのも当たり前かもしれません。しかし、この発表では、食材や服を買いに行くという日常的な行為を両都市で比較することを通して、生活に身近な視点から、二都市の空間と社会の違いと共通性を感じていただければと思います。

事務局だより(2014年9月26日)

前回9月の講演会では、お二人の講演者から開戦100周年を迎えた第一次世界大戦をめぐって、教育(歴史教科書)、メディア(新聞)、そしてアカデミズム(研究会と研究書)それぞれの場に特徴的な視点と議論の傾向を概観していただきました。最後に、上記のいずれにおいても隅に追いやられがちな、日本を含むアジア諸国から世界大戦を見る意義について語っていただき、参加いただいた皆さまと活発な質疑応答が交わされました。
10月の講演会では、オランダ近世史がご専門の講演者から、アムステルダムと江戸におけるモノの売り買い(特に古着)の比較を通して、東西二都市の生活空間の相似相同を語っていただきます。
どうぞ奮ってご参加ください。

次々回は11月8日(土)の開催となります。日蓮の研究者にお話しいただきます。詳細は追ってお知らせいたします。


今年は全国的に、「彼岸まで」の長い夏の余韻を暮らした地域はあまりないようです。特に東日本では、予告なく玄関前に秋が立っていたような、そんな唐突な季節の入れ替わりでした。いずれにしろ、天候不順だった夏の後、秋が自然の豊かな実りを引き連れてくることを願います。

―火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり(秋元不死男)