事務局だより(2016年5月27日)

5月の月例講演会では、近代日本の移民史を中心に据えて、その時期、目指した地域、その希望や失意を明快に分類解説していただきました。世界的な人の移動はアクチュアルなテーマですが、同時に父祖からわれわれの日常へつながる身近な問題であることを改めて認識させられました。
次回6月は、21世紀世界のこれまでとこれからを考える際に、最も重要かつ不可欠なエレメントである中東地域について、中東・アラブ現代史をご専門とする講演者からお話を伺います。どうぞ奮ってご参加ください。

次々回講演会は、7月9日(第2土曜日)午後4時からの開催です。ポツダム宣言の原文をひも解きつつ、ポツダム宣言をめぐる諸国の事情を歴史的に考察します。詳細は追ってお知らせいたします。


晩春を一足飛びに越えて、すでに真夏日の暑さにみまわれた地域も多いようです。しかし、これからまだ梅雨の季節が控えています。好天の日差しを仕事や家事にご利用ください。

―パンとなる小麦の緑またぎ跳びそこより夢のめぐるわが土地(寺山修司)

第130回講演会のお知らせ

アラブ住民訪問を通じての中東近況報告

日付: 2016年6月11日(土)
時間: 16:00 – 18:00
場所: 渋谷アイビスビル10階 (エレベータで9階へ上がり階段でお越しください)

講師:
藤田 進 氏(東京外国語大学名誉教授)
長年パレスチナ問題を中心に、中東地域の歴史的考察に取り組む。パレスチナの難民支援運動も活発に展開し、現地で住民の生きた声を聞きとりながら研究を進めている。主な著書に、『蘇るパレスチナ-語り始めた難民たちの証言』(東大出版会、1989)、『21世紀の課題―グローバリゼーションと周辺化』(有志社、2013年)など。

概要:
昨秋私はエジプト・パレスチナ・レバノンを訪問し、中東のいわゆる「イスラム・テロリズム」の実態をアラブ住民の側から観察する機会に恵まれました。8年ぶりに訪れたパレスチナは、アラブ住民地区のいたるところを隔離壁が貫いており、壁の中の住民生活は支障をきたしてずたずたな状態をさらしており、路上ではパレスチナの少年少女が、死を賭してナイフでイスラエルの兵士や入植者に襲いかかり射殺されるということが日常的に起きていました。
イスラエルが48年間にわたるパレスチナ占領を通じて、法律や罰則を次々設けてはパレスチナ住民の居住地域を制限し、家を壊し、抵抗する人々を投獄・追放しながら彼らをどこにも居場所のない「難民」へ追い込んでいくという取組みを続けてきた歴史が、このパレスチナの異様な光景につがっている。そして、イスラエルの占領地とその住民に対する諸策のすべてが国際法違反であるにもかかわらず、その所業を国際社会もパレスチナ自治政府も黙認する限り犠牲となる住民には打つ手はない。そういう理不尽で絶望的な状況を背景に、「流血事件」は噴出している。私は今回のパレスチナ訪問を通じて、そのように理解しました。
中東諸地域で大国の利益漁りに巻き込まれて命や生活を奪われた多くの住民たちが結束して「難民」となることを拒否し、「平和な郷土」奪還をめざしてさまざまな<敵>との決死の戦闘を展開している事実を踏まえるならば、中東の激動を「イスラム国(IS)」だけ取り上げて「イスラム・テロリズム」と一括し「反テロ戦争」を唱えることなどできません。安倍政権が国益拡大を目ざして安易に「反テロ戦争」に加担すれば、日本が中東人民との泥沼の戦闘に引きずり込まれていく危険性が憂慮されます。
当日は以上のような主旨のもとに、パレスチナなど若干の現地写真や資料を示しながら現地事情にもとづく中東報告をさせていただきます。