事務局だより(2015年5月20日)

5月の講演会では、コロンブスの航海、慶長遣欧使節、ハイティ革命、移民など多面的な時空間、ひとの交流のなかに浮かび上がるキューバの姿を示していただきました。次回6月は沖縄出身者で初の芥川賞作家、大城立裕の作品を文学社会学の視点から、作者とも親交のある講演者に分析してもらいます。沖縄をめぐる「ことば」のなかに立ち現れる沖縄とは、どんな姿なのでしょうか。
どうぞ奮ってご参加ください。

7月の講演会は第1土曜日4日午後4時からの開催となります。「1945年」をテーマに、会員有志の皆さまから、それぞれの「1945年」を語っていただく予定です。詳細は追ってお知らせいたします。


ことばは共同体のもっとも大切な支柱のひとつだろうと思います。70年前に終焉した国の体制のなかで、為政者はどのようにことばを使い、国民はそれをどう受けとめていたのでしょうか。今年6月、8月、沖縄と日本にそれぞれ70年目の終戦記念日がめぐってきます。

―さくらんぼことばをそっと置くやうに(吉野裕之)

第119回講演会のお知らせ

「大城立裕の文学と<沖縄>」
武山 梅乗 氏

日付: 2015年06月06日(土)
時間: 16:00 – 18:00
場所: 渋谷アイビスビル10階 (エレベータで9階へ上がり階段でお越しください)

講師プロフィール:
武山 梅乗(たけやま うめのり)
社会学者。駒澤大学、明治学院大学、都留文科大学等非常勤講師。
主たる研究テーマは戦後沖縄における文化表象で、大城立裕の作品や沖縄の同人誌の分析を通じて戦後における沖縄文学史の社会学的な解読を試みています。東日本大震災以降は「園芸福祉」にも目を向け、その「新しい社会運動」としての重要性に着目しながら、全国各地においてフィールドワークを継続しています。
著書:『不穏でユーモラスなアイコンたち―大城立裕の文学と<沖縄>―』(晶文社、2013年)。共著『社会学の扉をノックする』(学文社、2009年)、共編著『戦後・小説・沖縄』(鼎書房、2010年)。

講演要旨:
芥川賞作家、しかも「言語の七島難」があるがゆえに「文学不毛の地」といわれた沖縄の出身者で初の芥川賞作家である大城立裕は、文化的な特殊性や政治的な複雑性を内包する<沖縄>というテーマを、ヤマト(本土、日本)の読者がわかるようなテクストに翻訳することに努めてきた作家であるといえます。しかし、その立ち位置は大城を一方でヤマトの視線に従い、他方で日本の視線を拒否するというダブルバインド的状況に置き、その位置から創作される作品、あるいはそこから発せられた言説は、大城の意図とは切り離され、「日本を見る鏡」を経由するという屈折した読まれ方をされ続けました。この講演では、まず芥川賞が大城にもたらした苦悩について、芥川賞受賞作品である「カクテル・パーティー」(1967)の読まれ方をめぐる問題を中心に考えてみたいと思います。
また、小説「亀甲墓(かめのこうばか)」(1966)においては、沖縄の基層的文化をもっともよく表象している<オバァ>というキャラクターの造形に成功しながらも、大城の描く物語世界がポストコロニアル的な視点に欠けるうえに、平坦であまりにも構造的すぎるという評価をしばしば受けてきました。ところが、最近の大城作品には物語に不穏な空気を醸すキャラクター「不穏でユーモラスなアイコンたち」がしばしば登場します。この講演の後半では「不穏でユーモラスなアイコンたち」を起点とし、最近の大城作品を複数の声が輻輳するポリフォニックなテクストとして再読していこうと思います。